スタッフブログ

90°V6のエトセトラ。

カテゴリー ショールームダイアリー
スタッフ 森本 篤範 / モリモトアツノリ   [セールススタッフ]
[2021/06/10]
セールススタッフ 森本 篤範
 
「・・・完全なアルファ ロメオオリジナルのエンジンです。」

このエンジンの事をこう説明するスタッフも中には居るようです。

それは、クワドリフォリオやGTA/GTAmに搭載される90°V6のこと、

では、なぜバンク角が90°なんて設計になっているのでしょうか?




 
答えはこのV6がフェラーリF154と呼ばれるV8の一族であるからです。


 4ストロークのエンジンはクランク2回転ですべてのシリンダーに点火しますから、8気筒の場合720°÷8で90°に1回点火されれば等間隔着火となります。ゆえに一般的にV8エンジンのバンク角はF154系も含め90°です。そして、世の中にこの設計をそのままV6エンジンに転用したという例は意外と多く、マセラティのビトゥルボ系V6をはじめ、90年代後半に登場したベンツV6、プジョー、ルノー、ボルボに積まれその頭文字を取ったPRVのV6などが挙げられます。要するにV8の2気筒分をブッた切ってV6にするわけですが、対向するピストンから伸びるコンロッドが繋がる部分のクランクピンを30°ずらしてあげれば、90°バンクV6でも等間隔着火とする事ができるのでスムーズにはなります。ただし、この場合は1次偶力を消す事ができず、特に低回転でブルブルするような感覚が感じられるクルマになります。




 
 そこで、イチからV6エンジンを設計する場合、バンク角は60°が選択されることが一般的です。6気筒の場合720°÷6で120°に1回点火されれば等間隔着火となります。でもバンク角が120°では普通のクルマのエンコンに収まりませんからバンク角を60°とする一方、対向するピストンから伸びるコンロッドが繋がるクランクピンには60°のオフセットを設けて等間隔着火とするのです。この場合、クランクシャフトを正面から見ると60°ずつ等間隔に腕を伸ばしたようなきれいな形状になりますから、バランスも上述の90°V6よりは取りやすく振動特性は宜しいようです。往年のアルファV6エンジンは、ブッソーネV6も939系V6もこういう設計でした。


・・・という事で、クワドリフォリオ用V6は元の設計がV8であるからこそ

バンク角が90°になっているのです。でも、世の中にはイチから作ったV6なのに

バンク角を90°にするという変わったメーカーもありました。




 
往年のホンダです。

画像の初代レジェンド前期型にはC25Aという90°V6が搭載されていました。

この時代のホンダ車はみんな矢鱈とボンネットが低い位置にありましたから、

その下に収めるためにバンク拡げてエンジン高を下げたかったものと思われます。


 余談ですが、この時代のホンダC型V6エンジンのSOHC仕様は、吸気バルブをベルト駆動のカムシャフトで動かし、排気バルブについてはそのカムから伸びたプッシュロッドで動かしていました。この仕掛け、どこかで見た事がありますよね。そう、SOHC時代のブッソーネV6です。ホンダもアルファV6をバラシて研究したのかもしれませんね。ホンダC型V6は上述のように対向するシリンダーの分はクランクピンに30°のオフセットを設けて等間隔着火とする設計だったのですが、そのズラしたピンとピンの間に小さなウェブが挟まっているという所なども風変りではありました。30°のオフセットの場合、ウェブを設ける設計は珍しい気がします。




 
 ビトゥルボ系と呼ばれるマセラティに積まれていたV6エンジンは、ジュリオ・アルフィエーリ技師設計のV8から2気筒をトッ払った設計ですが、そのクランク形状は「サイドバイサイド」つまり、一つのクランクピンに対向する2つのピストンが繋がる構造でした。これが何を意味するかというと、90°→150°→90°→150°→90°→150°の間隔でスパークプラグが火花を飛ばす不等間隔着火であるということです。そして、クワドリ/GTA/GTAm用のV6エンジンもビトゥルボと同じ不等間隔着火のエンジンです。通りでアイドリング時のドコドコと聴こえる排気音が似ている訳です。不等間隔着火の何がマズいかというと、排気干渉が起きるので音がチト五月蠅いというのがあります。
 しかし何故クワドリ用V6はサイドバイサイドの不等間隔着火なんてクランク設計を採用したのか?おそらくは、クランク剛性を下げたくなかったものと思われます。2.9リッターで510馬力という事は、ベースとなった「カリフォルニアT」はおろか、この間ターンパイクで燃えたF40よりもさらにハイチューンという事になります。是非ともこのパワーを受止められるクランクにしたい・・・ところが、等間隔着火のためにクランクピンにオフセットを設けるとなるとクランク剛性はすっかり落ちてしまうのです。




 
ベースになったカリフォルニアT用V8エンジンとは86.5×82.0mmのボアストロークも

同一のクワドリ用V6、このような設計を「モジュラー設計」と呼びます。

な~んだ設計流用か・・・などと言うなかれ、

実はモジュラー設計こそは知る人ぞ知るフェラーリの十八番なのです。


 画像の365GT/4BB用の180°V12と308GTB用のV8、その以前のモデル365GTB/4(要するにデイトナ)用60°V12は、ボアストロークのみならずコンロッドの大小端距離や動弁系の設計に至るまでがみんな共通です。なぜそうなったかといえば、当時のフェラーリ市販車開発部門には10名くらいのスタッフしか居なかったそうで、にも関わらず70年代前半にはニューモデルを矢継ぎ早に出していますから、もう忙し過ぎて当時はまだ珍しかったモジュラー設計を取入れざるを得なかったのだそうです。この辺りの事は「スーパーカー誕生(沢村慎太朗著、文踊社、2008年)」に詳しいので、ご興味お持ちの方は是非探して読んでみて下さい。恐らくですが、クワドリV6はモジュラー設計を取入ていなければ、デビューはもっともっと遅くなり、車両価格もずっと高くなっていた事でしょう。元の設計が素晴らしいものであれば、流用はむしろ正義なのです。





 
という事で、伝統ある由緒正しき「モジュラー設計」が採用されている

クワドリ/GTA/GTAm用の90°V6エンジン、

別にフルオリヂナルじゃなくたってイイじゃないですか。

思えば、155後期以降のツインスパークも1.4マルチエアーも1750TBiも

フルオリヂナルじゃなくたって、これぞアルファという回り方をしてくれる訳です。

やはり、アルファの走りは実験部隊のセッティングのお仕事あってこそ、

といういつもの結論で終わりたいと思います。






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セールススタッフ 森本 篤範
 
「・・・完全なアルファ ロメオオリジナルのエンジンです。」

このエンジンの事をこう説明するスタッフも中には居るようです。

それは、クワドリフォリオやGTA/GTAmに搭載される90°V6のこと、

では、なぜバンク角が90°なんて設計になっているのでしょうか?




 
答えはこのV6がフェラーリF154と呼ばれるV8の一族であるからです。


 4ストロークのエンジンはクランク2回転ですべてのシリンダーに点火しますから、8気筒の場合720°÷8で90°に1回点火されれば等間隔着火となります。ゆえに一般的にV8エンジンのバンク角はF154系も含め90°です。そして、世の中にこの設計をそのままV6エンジンに転用したという例は意外と多く、マセラティのビトゥルボ系V6をはじめ、90年代後半に登場したベンツV6、プジョー、ルノー、ボルボに積まれその頭文字を取ったPRVのV6などが挙げられます。要するにV8の2気筒分をブッた切ってV6にするわけですが、対向するピストンから伸びるコンロッドが繋がる部分のクランクピンを30°ずらしてあげれば、90°バンクV6でも等間隔着火とする事ができるのでスムーズにはなります。ただし、この場合は1次偶力を消す事ができず、特に低回転でブルブルするような感覚が感じられるクルマになります。




 
 そこで、イチからV6エンジンを設計する場合、バンク角は60°が選択されることが一般的です。6気筒の場合720°÷6で120°に1回点火されれば等間隔着火となります。でもバンク角が120°では普通のクルマのエンコンに収まりませんからバンク角を60°とする一方、対向するピストンから伸びるコンロッドが繋がるクランクピンには60°のオフセットを設けて等間隔着火とするのです。この場合、クランクシャフトを正面から見ると60°ずつ等間隔に腕を伸ばしたようなきれいな形状になりますから、バランスも上述の90°V6よりは取りやすく振動特性は宜しいようです。往年のアルファV6エンジンは、ブッソーネV6も939系V6もこういう設計でした。


・・・という事で、クワドリフォリオ用V6は元の設計がV8であるからこそ

バンク角が90°になっているのです。でも、世の中にはイチから作ったV6なのに

バンク角を90°にするという変わったメーカーもありました。




 
往年のホンダです。

画像の初代レジェンド前期型にはC25Aという90°V6が搭載されていました。

この時代のホンダ車はみんな矢鱈とボンネットが低い位置にありましたから、

その下に収めるためにバンク拡げてエンジン高を下げたかったものと思われます。


 余談ですが、この時代のホンダC型V6エンジンのSOHC仕様は、吸気バルブをベルト駆動のカムシャフトで動かし、排気バルブについてはそのカムから伸びたプッシュロッドで動かしていました。この仕掛け、どこかで見た事がありますよね。そう、SOHC時代のブッソーネV6です。ホンダもアルファV6をバラシて研究したのかもしれませんね。ホンダC型V6は上述のように対向するシリンダーの分はクランクピンに30°のオフセットを設けて等間隔着火とする設計だったのですが、そのズラしたピンとピンの間に小さなウェブが挟まっているという所なども風変りではありました。30°のオフセットの場合、ウェブを設ける設計は珍しい気がします。




 
 ビトゥルボ系と呼ばれるマセラティに積まれていたV6エンジンは、ジュリオ・アルフィエーリ技師設計のV8から2気筒をトッ払った設計ですが、そのクランク形状は「サイドバイサイド」つまり、一つのクランクピンに対向する2つのピストンが繋がる構造でした。これが何を意味するかというと、90°→150°→90°→150°→90°→150°の間隔でスパークプラグが火花を飛ばす不等間隔着火であるということです。そして、クワドリ/GTA/GTAm用のV6エンジンもビトゥルボと同じ不等間隔着火のエンジンです。通りでアイドリング時のドコドコと聴こえる排気音が似ている訳です。不等間隔着火の何がマズいかというと、排気干渉が起きるので音がチト五月蠅いというのがあります。
 しかし何故クワドリ用V6はサイドバイサイドの不等間隔着火なんてクランク設計を採用したのか?おそらくは、クランク剛性を下げたくなかったものと思われます。2.9リッターで510馬力という事は、ベースとなった「カリフォルニアT」はおろか、この間ターンパイクで燃えたF40よりもさらにハイチューンという事になります。是非ともこのパワーを受止められるクランクにしたい・・・ところが、等間隔着火のためにクランクピンにオフセットを設けるとなるとクランク剛性はすっかり落ちてしまうのです。




 
ベースになったカリフォルニアT用V8エンジンとは86.5×82.0mmのボアストロークも

同一のクワドリ用V6、このような設計を「モジュラー設計」と呼びます。

な~んだ設計流用か・・・などと言うなかれ、

実はモジュラー設計こそは知る人ぞ知るフェラーリの十八番なのです。


 画像の365GT/4BB用の180°V12と308GTB用のV8、その以前のモデル365GTB/4(要するにデイトナ)用60°V12は、ボアストロークのみならずコンロッドの大小端距離や動弁系の設計に至るまでがみんな共通です。なぜそうなったかといえば、当時のフェラーリ市販車開発部門には10名くらいのスタッフしか居なかったそうで、にも関わらず70年代前半にはニューモデルを矢継ぎ早に出していますから、もう忙し過ぎて当時はまだ珍しかったモジュラー設計を取入れざるを得なかったのだそうです。この辺りの事は「スーパーカー誕生(沢村慎太朗著、文踊社、2008年)」に詳しいので、ご興味お持ちの方は是非探して読んでみて下さい。恐らくですが、クワドリV6はモジュラー設計を取入ていなければ、デビューはもっともっと遅くなり、車両価格もずっと高くなっていた事でしょう。元の設計が素晴らしいものであれば、流用はむしろ正義なのです。





 
という事で、伝統ある由緒正しき「モジュラー設計」が採用されている

クワドリ/GTA/GTAm用の90°V6エンジン、

別にフルオリヂナルじゃなくたってイイじゃないですか。

思えば、155後期以降のツインスパークも1.4マルチエアーも1750TBiも

フルオリヂナルじゃなくたって、これぞアルファという回り方をしてくれる訳です。

やはり、アルファの走りは実験部隊のセッティングのお仕事あってこそ、

といういつもの結論で終わりたいと思います。






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